障害者支援にニューロダイバーシティの考え方を!

障害者支援

私は現在障害者グループホームの管理者をしています。今までこのブログを犬猫生活ブログから始めて、色々試行錯誤しましたが、この度、自分の職業である障害支援に集約していくことにしました。(以前のは特に消去しません)

グループホームブログを運営するを躊躇していたのは個人情報の問題です。そうだ、自分の場所や名前を特定せずにイラストや仮名を使っていけば、毎日の記録だって残していけるんだと気づいた次第です。リニューアル第一弾は論文的に攻めました。

◆ ニューロダイバーシティと社会的行動の調和

私たちは長い間、「普通」という曖昧な基準を設け、それに合わない人を「障害者」と呼んできました。しかし、この「普通」とは何でしょうか?実は、すべての人が何らかの形で「普通」から外れています。相模原市で障害者グループホームを運営する中で、私はこの矛盾に日々向き合っています。

ニューロダイバーシティ(神経多様性)とは、人間の脳の働き方や認知スタイルの違いを「障害」ではなく「自然な多様性の一部」として捉える考え方です。1990年代後半、自閉症の当事者であるジュディ・シンガーによって提唱されました。

ニューロダイバーシティの基本概念

  • 多様性としての脳:自閉症やADHD、学習障害などは「障害」というより、人間の神経系の自然な変異である
  • 医学モデルからの転換:「治療して標準に近づける」から「多様性を尊重し環境を整える」へ
  • 社会モデルの実践:困難の原因は個人の特性ではなく、多様な脳の特性に対応できていない社会環境にある

「多様な脳の特性は治療すべき欠陥ではなく、人類の変異と多様性の自然な一部である」

― ニック・ウォーカー(ニューロダイバーシティ研究者)

◆ 行動の問題と社会的視点

当面問題となるのは、器物破損や窃盗、公共の場での迷惑行為などです。研究によれば、知的障害のある青少年は警察との接触や落書きなどの行為が報告される割合が高い傾向にあります。

しかし、重要なのは、これらの行動の背景にある要因を理解することです。多くの場合、こうした行動は単なる「問題行動」で

はなく、コミュニケーションの困難さや感覚過敏、環境への適応の難しさなど、様々な要因が複雑に絡み合った結果として現れます。

研究でも、外部のリスク要因への曝露の違いを考慮すると、知的障害と反社会的行動の関連性は大きく変わることが示されています。

◆ 日本の障害者手帳保有者の割合

  • 身体障害 436万人(人口1,000人中34人=約3.5 %
  • 知的障害 109万4千人(同9人=約0.9 %
  • 精神障害 614万8千人(同49人=約4.9 %

※複数手帳の重複があるため単純合算はできませんが、少なくとも国民の約9 %が何らかの障害認定を受けている計算になります。

出典:令和5年版障害者白書

◆ 「その他」の領域

難病、高次脳機能障害、感覚障害などは統計の陰に隠れがちです。手帳交付や給付制度の枠外に置かれることも多く、実態の把握と支援の届きやすさが今後の課題です。

◆ 潜在的に支援を要する人びと

  • 発達障害スペクトラム(ASD 3 %前後、ADHD・学習症などを含めると5〜7 %
  • メンタルヘルス不調(生涯有病率は5人に1人と言われる)

“グレーゾーン”まで含めれば、国民の2〜3割が日常生活で何らかの困難を抱える可能性があり、「少数派」という言葉自体がぐらつきます。

◆ 行動の背景要因を見つけ出して改善した実例

相模原市のティーアール障害福祉事業所では、行動の背景要因を丁寧に分析し、適切な支援につなげた例がいくつかあります。

事例1:公共の場での大声と多動

Aさん(20代男性)は、スーパーなどの公共の場で突然大声を出したり、走り回ったりする行動がありました。

問題: 公共の場での大声や多動が周囲とのトラブルになることがありました。

分析: 単に「迷惑行為」として制限するのではなく、行動の背景を観察したところ、特定の音(店内放送や冷蔵庫の音など)に対する聴覚過敏があることがわかりました。

解決策: イヤーマフの使用や、比較的静かな時間帯の利用を工夫したところ、落ち着いて買い物ができるようになりました。

事例2:物を投げる・壊す行動

Bさん(30代女性)は、時折物を投げたり壊したりする行動がありました。

問題: 施設内での物品破損が頻繁に発生していました。

分析: 詳しく観察すると、この行動は主に自分の要求が伝わらないときや、予定の変更があったときに起こることがわかりました。

解決策: コミュニケーションボードの導入と、視覚的なスケジュール表を活用することで、自分の意思を伝える代替手段を獲得し、物を壊す行動は大幅に減少しました。

事例3:他者への接触行動

Cさん(10代男性)は、知らない人に突然触れたり、抱きつこうとしたりする行動があり、トラブルになることがありました。

問題: 公共の場で見知らぬ人への接触行動が社会的なトラブルを引き起こしていました。

分析: 行動分析の結果、感覚刺激を求める行動であることがわかりました。

解決策: 適切な感覚刺激を得られる活動(重い布団を使用する、圧迫感のある服を着る、粘土遊びなど)を日課に取り入れることで、不適切な接触行動は減少しました。

◆ 相模原市での取り組みと新しい視点

相模原市では、障害者への理解を深めるための啓発活動も積極的に行われています。ティーアール障害福祉事業所でも、地域住民向けの勉強会を開催し、一見「問題行動」と見える行動の背景には理由があること、そして適切な支援があれば改善できることを伝えています。

社会生活を送る上で、一定のルールを守ることは確かに重要です。器物破損や窃盗などの行為は、他者の権利を侵害するものであり、適切な指導や支援が必要です。しかし、その方法は抑圧や排除ではなく、理解と適応に基づくものであるべきでしょう。

◆ 躾の変遷と多様性への気づき

昔の躾の特徴

  • 集団への順応重視:「出る杭は打たれる」という言葉に象徴される、同調圧力の強い社会
  • 厳格なルールと罰則:「泣くまで叩く」「食べられるまで座らせる」などの体罰を含む指導
  • 我慢と忍耐の美徳化:「我慢は美徳」「泣くな」「男の子でしょ」などの感情抑制の奨励
  • 画一的な成功モデル:「良い学校→良い会社」という単線型の人生設計の押し付け

昔のしつけというのは厳しく、それは多数派の人たちの社会で溶け込めるように行われた行為であろうと思われます。それはそれで良い点もありますが、抑圧されたという人の中から天才という人が現れ、世の中を進化させてきたという事実も否めません。創造性は時に社会の枠組みを超えたところから生まれるのです。

多様性と個性を尊重する新しい躾への転換

昭和期までの躾は、「皆と同じであること」「空気を読むこと」を重視し、個性よりも集団への適応を優先する傾向がありました。これは高度経済成長期の工業化社会において一定の合理性を持っていたと言えます。しかし、現代社会ではその価値観が大きく変化しています。

過去と現在の躾の違い
昔の躾の考え方 ニューロダイバーシティの視点
「普通になるよう」矯正する その子の特性を理解し、強みを伸ばす
「ルールを守れない」と叱責 なぜルールを理解できないのかを探る
感覚過敏などを「わがまま」と誤解 感覚特性を理解し、環境を調整する
「皆と同じように」を強要 「その子なりの方法」を尊重

現代の子育てや教育では、個々の特性に合わせた支援と、社会のルールを学ぶことのバランスが重要です。ニューロダイバーシティの視点は、「矯正して普通にする」のではなく、「多様な特性を持つ人々が共に生きられる社会をつくる」という方向性を示しています。

昔の躾が間違っていたというわけではありません。時代や社会の要請に応じて、子どもを社会に適応させようとする親心は今も昔も変わりません。しかし、「適応」の意味そのものが、画一性から多様性へと変化しているのです。

◆ 「障害」ではなく「脳の多様性」という視座

脳や神経に由来する個人差は、欠陥ではなく多様性である。社会のほうがその多様性を前提に設計を見直すべきだ。

ニューロダイバーシティ運動の宣言より

指紋が一人ひとり違うように、脳の働きもまた多種多様。多数派のつくった枠に人を当てはめて”矯正”するのではなく、社会を柔らかく編み直す——それがニューロダイバーシティの核心です。

ニューロダイバーシティの考え方は、脳の働き方の多様性を認めつつも、社会的ルールとの調和を図ることを目指します。相模原市のグループホームでも、利用者さん一人ひとりの特性を「治すべき問題」ではなく、その方の個性として尊重しながらも、社会生活に必要なスキルを身につけられるよう支援しています。

これは単なる「優しさ」ではなく、人間の多様性を自然で豊かなものとして捉え直す、新しい社会の在り方への転換なのです。多様性と社会的調和の両立こそが、私たちが目指すべき方向性ではないでしょうか。

◆ 障害者支援の変遷――制度からインクルージョンへ

戦後〜1960年代

“保護”と収容の時代

1949 年 《身体障害者福祉法》で援護の枠組みが整備されるものの、施設入所が中心。「家族か施設か」の二択でした。

1970〜80年代

就労と自立がキーワードに

1976 年《身体障害者雇用促進法》、1987 年改正で雇用率制度が導入。

当事者による「青い芝の会」「自立生活運動」が始まり、”暮らしは施設ではなく地域で”という声が高まります。

1990〜2000年代

社会モデルへの転換

1993 年《新障害者プラン》、1995 年障害者基本法改正。

2003 年《支援費制度》、2006 年《障害者自立支援法》——サービス利用の「契約化」で、本人主体の選択が制度化されました。

2010年代以降

差別解消と共生社会へ

2013 年《障害者総合支援法》、2016 年《障害者差別解消法》施行。

19 年《改正障害者雇用促進法》、23 年には合理的配慮の義務化が就労領域にも拡大。

これから

インクルーシブデザインと地域共生

ICT・AIによる意思疎通支援、ユニバーサルデザイン住宅、インクルーシブ教育……支援は”サービス”から”街づくり”へとスケールアップしつつあります。

長い道のりを経て、支援は「隔離」から「共に生きる」へ舵を切りました。法制度だけでなく、地域コミュニティや企業、市民一人ひとりのまなざしが、この先の風景を形づくります。

それでは、これらにさ更なる視点をくわえた動画をご覧ください。

ニューロダイバーシティ

毎回Suno,aiで歌も作っていきたいと思います。

 

◆ むすび

数字が語るのは、「違い」は決して例外ではなく、ごく当たり前に私たちの隣に存在しているという事実です。多数派の基準を絶対とせず、環境と支援を柔軟に編み直すこと——それこそが”全員参加型”の社会への近道なのだと、障害者支援の歴史は静かに物語っています。

 

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